シュワルツェントルーバーアーミッシュを18歳で抜け出した女の子の話『Runaway Amish Girl』

シュワルツェントルーバーアーミッシュの女の子

2019年にシュワルツェントルーバーアーミッシュの友人が増えるに連れて、私の中で彼らへの関心がどんどん高まっていきました。

「シュワルツェントルーバー」って、発音しにくいし長いので、私は敬意を込めつつ「シュワちゃん」と読んでいます。
Down to Earthのinstagramの方ではたびたび、シュワちゃんについて投稿していますので、馴染みの方も多いはず)

ちなみに、シュワちゃんの着ているドレスがまた美しいのです。「トラディショナルアーミッシュドレス」として、オンラインショップでも紹介をはじめたので、気になる方はぜひご覧くださいね。

今日はそんなシュワちゃんのコミュニティから逃げ出した女の子の話。
Amish-Escape-1
photo/Zach Weber Photography

Emma Gingerichという子です。彼女はオハイオ州ホルムス郡のシュワちゃんの教区で生まれ育ちました。
後に他州へ引っ越しますが、成長するにつれてシュワルツェントルーバーアーミッシュとして洗礼を受け、人生を送る事に抵抗を感じるようになり、ついにコミュニティを抜け出します。

そして、新たな人生をスタートさせたという女性。

アメリカのテレビ番組に出演した様子がyoutubeでも公開されています。

元アーミッシュという事で、司会者も観客も興味津々ですね。そしてEmmaの様子はアーミッシュらしく、身振り手振りが少なくあまり感情を表現しないようなしゃべり方。(ここらへんは、日本人と似ていますよね)

実は、Emmaが生まれ育ったシュワルツェントルーバーの教区は、私がまさにフィールドワークをしている場所。
苗字のGingerichにも馴染みがあって、知人のアーミッシュが何人か顔が浮かびます。もしかしたら、親類という事もあるかもしれません。
アーミッシュは子沢山な事もあって、親類が100人とか200人いるという事もざらです。

Emmaのアーミッシュとしての過去が描かれた著書

Emmaがアーミッシュを抜け出した理由が知りたくて、彼女の著書を読んでみました。

こちらです↓

Runaway Amish Girl: The Great Escape

余談ですが、アーミッシュを抜け出した人の本は、アメリカではかなりの数が出版されています。アーミッシュにとどまっている人の本よりも、抜け出した人の本の方が多いのが現状。どうしてだろう?と気になってたところ、謎が解けました。

アーミッシュ研究をしている方に伺ったところ、「アーミッシュの家庭に生まれ、そこから抜け出した人の本」というジャンルは需要が高いらしく、出版すれば一万部くらいは売れるそうな。

そういうわけで、出版社はex-Amish(元アーミッシュ)の人にコンタクトをとり、きちんと文章にまとめられるライターや編集者をつけて経験談を世に出すというのが習慣のようになっていると。

なるほど…。

このEmmaの著書『Runaway Amish Girl』がどういう経由で出版されたかは分かりませんが、ある一定の層が常に関心を持っているテーマであることは間違いありません。
彼女がテレビ番組に出演し注目を集めるのもうなずけます。

肝心の書籍の内容ですが、平易な英語で書かれていて読みやすかったです。
Emmaは現代的な価値観を持っていて、シュワルツェントルーバーアーミッシュとして洗礼を受け、男性と結婚をし、たくさんの子ども達を育てながら家事に忙殺される生活をおくりたくなかった。
というのが脱出の真因のように感じました。

シュワルツェントルーバーは独特なデートの慣習がありますが、それが嫌だったこと。
兄弟姉妹達の面倒をたった一人で見させられ辛かったこと。
などが描写されていました。

また、極度の頭痛に悩まされていたEmmaを両親が治療施設に連れていくのですが、その施設のバルーン治療というのが本当に苦痛で非人権的だったことなども……。

たくさんの嫌な事、苦痛な事を強いられる人生。それがEmmaにとってのアーミッシュライフだった事がよく分かりました。

お父さんはいつもパイプを吸っていて(保守的なアーミッシュの中には、タバコはダメだけどパイプはOKというルールを持つところもある)、怠け者だった事。お母さんは自分の意見を言わずに周りに従うだけの女性で、Emmaにとってロールモデルではなかったというのも悲しい事です。

youtubeのインタビューでも、「楽しみな事は一つもなかった」と語っていますが、そんな様子が本でもよく分かり、読んでいるとこちらも落ち込みました。。。。

物事や周りの人達をポジティブな角度で見る子ではないという事もよく分かり、シュワルツェントルーバーのライフスタイルそのものに問題があるのかの客観的な判断はつけられなかったです。

ただ、Emmaにとっては、このコミュニティを抜け出した事は正解だったはず。彼女は大学教育を受けて、幸せそうな姿を感じられて安堵しました。

離れて暮らすアーミッシュの家族とも絶縁しているわけではなく、お兄さんの結婚式に出席したり、定期的に家族を訪問しているという事も書かれていました。

一人の女性として、自分の信じる幸せのために行動をおこしたEmmaの勇気は素晴らしいと思います。シュワルツェントルーバーの生活は超保守的なので、現代社会に馴染むのはたいへんだったと思います。

こんなエピソードも書かれていました。
アーミッシュ社会を抜けてはじめて、人がコンタクトレンズを外すところを見たときに、目玉を取り出しているのかと思い大ショックを受けた、とのこと。
メガネをかけているアーミッシュは良く見かけますが、コンタクトレンズはないのですね。知らなかったら、確かにびっくりする光景だよな、と想像しました。私たちが当たり前のように使っている便利な物一つ一つに驚きながら、Emmaは現代社会に馴染んでいったのでしょう・・・。

若者のデートの習慣

個人的に面白かったのは、シュワルツェントルーバーのデートの習慣。
彼らにとってのデートの場は、映画やカラオケやカフェやレストランなどではありません。若者が集まる歌の会に出席して、帰宅の道にバギーで男女が一緒に帰る、といのがお決まりのデートなのです。

男の子が女の子の家までバギーで送って、そして、女の子の自宅の部屋で夜中・早朝まで一緒に過ごすというのが習慣。部屋で一緒に過ごすと言っても、親密な関係にはなりません。

お話をしたり、添い寝をするというのが決まり。(私は勝手に、「添い寝デート」と呼んでいます)

シュワルツェントルーバーの若者にとっては、「バギーで一緒に女の子の自宅に行って、添い寝をして、早朝に男の子が帰る」というのがデート。このデートを色々な異性と繰り返しながら、結婚相手を見つけていくのだそう。

私達日本人の感覚と比較すると、「デート」の概念がもう少しカジュアルなのかもしれません。
バギーで一緒に帰って、添い寝する事事態はカジュアルではないですが、カジュアルな感覚でデートをしてみる様子が伺えます。

というのも、日本の一般的な流れ、つまり、告白があって、彼氏と彼女の関係になって、デートをする、というのがありません。
別に彼氏彼女の関係でなくとも、相性を確かめるために色々な人とデートをするよう。
一晩のデートをしてみて、相性が良さそうだったらデートをもう一度して、徐々にお互いを彼氏・彼女として認め合っていくというのがスタイルのよう。

デートをはじめるときも自分から相手を誘い出すのではなく、兄弟や親戚、友達が仲介をしてくれるのだそう。Emmaも、兄弟から「あいつがおまえとデートしたいそうだけど、どうする?」と話しかけられて、どうするか決めていたと書かれていました。

面と向かって誘い出す必要がないので、勇気が出ない男性も仲介人がいることでデートしやすくなりそうですね。

若者達が仲介を挟みながら色々な人とデートをするというのは、もしかしたら良い面もあるかも。日本にも昔は結婚の仲介人がいて、その人達のおかげで多くの結婚が成立していたという話を聞いたことがあります。現代では恋愛相手・結婚相手は自分の力で探さなくてはいけないので、ある意味大変。晩婚・非婚も進んでいます。

これは想像でしかありませんが、シュワちゃんは仲介人がいることで恋愛がしやすく、その結果、結婚にも至りやすいのかもしれません。そして、子供がたくさん生まれ、民族としてはどんどん繁栄をしている…。もちろん、デートの習慣だけが人口増の理由ではないですが、この習慣も一役買ってそうに見えます。

この本の中で、「恋人と別れたいときは、グローブを贈る」という記載があって、そこも気になりました。グローブは、「別れましょう」を意味する贈り物だそうで、Emmaもこれで彼氏と別れたとのこと。
詳しい記載はなかったので、また別の機会に調べてみようと思います。

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