アーミッシュのラムシュプリンガの、本当のところ。

aaP_20200308_171827_vHDR_Auto

この記事は、「2020 PLANNING GUIDE Ohio’s Amish Country」への寄稿記事を意訳しながら、私自身の知見も踏まえて執筆しました。
寄稿記事の筆者はMarcus Yoderさん。オハイオ州にある「アーミッシュ&メノナイトヘリテイジセンター」のエクゼクティブディレクターの方です。

テレビ番組やメディアによって作られた「ラムシュプリンガ」のイメージ

アーミッシュのラムシュプリンガについて、こんなふうに聞いた事がある人が多いのではないでしょうか?

アーミッシュは、16歳になるとコミュニティを離れ、「外の世界」を1-2年間体験し、アーミッシュのコミュニティに戻るかどうかを決めるーー

アメリカでは、アーミッシュに関する”リアリティショー”や”ドキュメンタリー”がよく放送されています。
日本でも、「アーミッシュ 〜禁欲教徒が快楽を試す時〜」という作品は有名ですね。
本国では「Breaking Amish」というテレビシリーズが多くの視聴率を獲得していました。他にも「Amish Mafia」や「Amish in the City」などいくつかのリアリティショーが放映されています。

これらのメディアの影響で、世の中の人々は「アーミッシュのラムシュプリンガ」について大きな驚きや戸惑い、疑問を抱くようになりました。
私も、何度も質問を受けた事がありますし、残念な事に、「アーミッシュ」というキーワードで検索すると一番上にヒットするWikipediaの中にも、このような説明があります。

Wikipediaはじめ、テレビ番組、映画、ドラマ、小説などのメディアが描写しているラムシュプリンガとは、こんなストーリーです。

・16歳から18歳になったアーミッシュは、コミュニティを離れ外の世界にくりだす
・外の世界で、お酒やパーティーなどの「快楽」を楽しむ
・その後、アーミッシュを続けるか止めるかの判断をしなくてはいけない
・アーミッシュを続ける事を選んだら、アーミッシュとして洗礼を受け、アーミッシュとしての暮らしをはじめる
・アーミッシュを止める事を選んだらコミュニティを離れ、家族や親類・友達などと会う事は許されない

アーミッシュ文化を扱うメディアの筋書きとしてよくある内容なのですが、事実は異なるというのが本当のところです。

ラムシュプリンガとは何なのか? 本当のラムシュプリンガとは?

ラムシュプリンガとは、もともとはドイツ語で「Rumspringa」と書きます。英語でいうところの「running around(遊びまわる)」という意味です。
このRumspringaというキーワードは、実はアーミッシュの人達はあまり使いません。なぜなら、Rumspringaは明確な時期が定められているイベントではないから。また、メディアの影響でRumspringaのセンセーショナルなイメージが一人歩きしている事を、アーミッシュの人達もよく知っているから。
(メディアの作り上げるアーミッシュ像、ラムシュプリンのイメージには、うんざりと感じている人が多いようです。)

アーミッシュの両親の元に生まれた子どもは、アーミッシュの学校に通い、アーミッシュの礼拝に参加しますが、彼らは正式にはまだアーミッシュではありません。しかし、自分の決断でアーミッシュとして洗礼を受けてはじめて、正式なアーミッシュになります。

この洗礼の時期は、「ラムシュプリンガを終えた18歳」というのがメディアの作り上げたイメージですが、実際は明確な時期は決まっていません。

往々にして、女の子の方が決断が早く、10代の後半から20代の前半が平均的。男の子は、25歳以降くらいにようやく決断をします。

この平均値データは、そのまま私の友達のデブラと旦那さんにも当てはまります。デブラは、18歳の時に洗礼を受けていますが、8歳年上の旦那さんは26歳のときに洗礼を受けたそう。

また、デブラには9人の弟と妹がいますが、長男と次男よりも先に、彼らより年下である次女が先に洗礼を受けました。

身を落ち着かせたくなる年齢というのは、どこの世界でも女性と男性で少しずれていますよね。

学校を卒業してから正式なアーミッシュになるまでの数年間

アーミッシュの学校は8年制なので、卒業するときの年齢は14歳。卒業した子ども達は、16歳になる事を心待ちにします。16歳になると、もう子どもではなく若者。
それまでは、親の保護のもとに生活し、親の把握している範囲内で世の中と関わってきましたが、16歳になると保護が解かれ自由になります。
同年代の友達と遊びに行ったり、若者のグループに参加したり、自分の意思で遊びまわる(running around)事が許されます。

ここから、「子どもではない。でもまだ、正式なアーミッシュではない」という特殊な期間がはじまります。まだ正式なアーミッシュではないので当然、アーミッシュのコミュニティが定めるルールに従わなくても咎められません。

ルールに従う必要がないので、彼らにとっては外の世界も内(アーミッシュ)の世界も境はありません。どちらの世界も体験しながら、この先の人生、自分がどのように生きていきたいかを模索します。

極端な行動に走ってしまう若者もいる

多くのアーミッシュの若者は、16歳になるとこんな行動に出ます。

・髪型を変えてみる
・アーミッシュの服ではなく、普通のアメリカ人のような服を着てみる
・メイクをしてみる
・アクセサリーをつけてみる
・免許をとって、車を運転してみる(18歳以降)

映画を見たり、音楽鑑賞をしたり、スポーツ観戦に行ったりする事すら少数派のようです。
ただ、残念な事に、中には未成年でのアルコール飲酒やドラッグに手を出してしまう人もいないわけではありません。
テレビやニュースなどのメディアは、こういう極端な行動に走っている少数の若者達にフォーカスしているというわけです。

未成年のアルコール飲酒やドラッグについては、アーミッシュの親達も強く警戒しています。
非アーミッシュの親と同様に、「やってはいけない事」として子ども達を教育していますが、教えが無視されて警察沙汰になってしまう事件も実際に起こっています。

アーミッシュの親達は、子ども達が成長をして、アーミッシュとして洗礼を受ける道を選んでくれるように常に願っています。しかしそれと同時に、子ども達にその道を強要する事ができない事も理解しています。そして、彼らが将来決断をするために、この自由な時間が必要である事も納得しています。

それゆえ、この「running around」の期間は、親達にとってとてももどかしく、繊細で、難しい時期でもあります。

多くの若者は何をしている?

多くのメディアは、極端な行動に走る若者ばかりを取り上げて、一般的な若者の行動を無視しています。
一般的な若者は、アーミッシュの価値観や伝統を大切にしながら、こんなアクティビティを楽しみます。
もちろん、NYとかロサンゼルスなどの都会に移り住むのではなく、親元に住みながらです。

・金曜日夜のバレーボール大会&食事会
・日曜日夜の歌の会

私がアーミッシュカントリーを旅をすると、外でバレーボールを楽しんでいるアーミッシュの若者をよく目にします。
時には雨の降る中、雪の降る中も。彼らはみんな、アーミッシュの服のまま、つまり女性はロングワンピースのままバレーボールをプレイしています。

私から見るとびっくりするような光景ですが、アーミッシュにとっては金曜日午後のごく当たり前の風景なんですね。
バレーボールに白熱したあとに、みんなでごはんを食べて、親睦を深めるのでしょう。

こういう若者達は、比較的若い年齢で洗礼を受ける決断をして、正式なアーミッシュとして生活をはじめます。そして、地域コミュニティの企画やイベントにも積極的に参加して、若手メンバーとしてコミュニティに貢献していきます。

アーミッシュのグループによる違い

若者たちは同世代の仲間で集う事が好き。
この事実は、アーミッシュの世界でも、他のどの世界でも変わりません。

でも、同年代の若者とどんなふうに過ごすかは、アーミッシュのグループによって少しずつ違いがあります。

保守的なアーミッシュグループ(シュワルツェントルーバーやダンアーミッシュ)は、洗礼前の若者といえど、アーミッシュの服を脱いで、普通のアメリカ人のような服を着るという事はあまりしません。

車を運転するという事もほとんどなく、バレーボールのイベントも一般的ではないです。(日曜夜の歌の会というのは、どのグループにも共通)

一方、進歩的なアーミッシュグループである「ニューオーダーアーミッシュ」の若者は、多くのイベントを楽しむそう。
例えば「水曜夜の聖書勉強会」や「金曜夜の青年の会」などが開催されています。

若者がどんなライフスタイルをおくるかは、グループによっても異なるし、もっと言えば、親の教育方針によっても異なります。

私たちの世界と同じように、厳しい親もいれば、ゆるい親もいる。そして、住んでいる土地によってもそれぞれのスタイルがあります。

私の知っているアーミッシュの若者達を振り返ってみると、「人によって過ごし方が違う」という事がよく分かります。
シュワルツェントルーバーの若者は、アーミッシュの服を着て親の手伝いや家業の手伝いをしてる人が多いです。対してオールドオーダーの男の子は、車に乗って仕事に行って、服も普通のアメリカ人のような格好。スマホも持っている人が多いです。オールドオーダーの女の子の方は、アーミッシュの服装のままですがスマホは持っている人は多いです。

洗礼を受けた後

どのグループに関わらず、若者の男女が交際に発展すると、親達は彼らが洗礼を受ける事を期待しはじめます。(男女がコミュニティ内で結婚する場合、洗礼を受ける事が条件となっているので)

保守的なアーミッシュグループの若者は、洗礼を受けたとしてもライフスタイルが大きく変わるわけではありません。ただ、進歩的なアーミッシュグループに属してして、「外の世界」を存分に味わった若者は、洗礼前と洗礼後で大きな生活の変化が訪れます。

つまり、洋服やスマホ、車を手放すというチャレンジを受け入れるのです。

洗礼を受けなかったらどうなる?

アーミッシュには「シャニング(忌避)」という習慣がある事は有名です。これは、日本でいうところの村八分と似たような習慣です。
アーミッシュのルールを破ると、家族と同じテーブルで食事ができなかったり、金銭のやりとりができなかったりと、生活が制限されます。そして、自分の罪を悔い改めて改心すると、もとの生活に戻る事ができます。

このシャニングという風習もアーミッシュ独特のものなので、多くのマスメディアに取り上げられるのですが、実際に今も厳しくシャニングを行っているグループは少数派だと思います。

「アーミッシュとして洗礼を受けなかったら、シャニングを受ける」という通説もまた、マスメディアが作り上げたイメージの一つです。洗礼を受ける前の若者は正式にはアーミッシュではないので、アーミッシュとしての洗礼を受けなくてもルール違反ではありません。
つまり、シャニングの対象にならないのです。

アーミッシュとして洗礼を受けない若者は、常に存在しています。10%とか20%とか、色々な説がありますが、コミュニティーによっても異なるし、年度によっても異なるので、一概に「○%」と言い切るのも難しいようです。

一つ言えることは、保守的なグループであればあるほど洗礼を受ける率が高いということ。

そして、洗礼を受けなかった若者の多くは、メノナイト教会に属する人が多いです。メノナイトは、アーミッシュの兄弟とも言える宗派で、同じ再洗礼派に属します。ライフスタイルはアーミッシュよりも進歩的ですが、キリスト教の信仰という面では同じ価値観を持っています。

最も保守的なアーミッシュグループの若者がメノナイトになったとしても、シャニングを受けて家族との交流が断たれるという事はありません。
もちろん、家族からの理解を得るのは難しい事ですが…。

オールドオーダーアーミッシュの若者がメノナイトになる事は、そこまで珍しい事ではありません。10人に1人の割合がアーミッシュを抜けるという統計を見た事がありますが、私の感覚的にもそのくらいが妥当な数値かな?と思います。

例えば、私の友人のアーミッシュのお父さんは10人兄弟でしたが、そのうちの一人はアーミッシュから抜けてメノナイトになりました。
デブラの旦那さんの兄弟には、何人かメノナイトがいます。

彼らにとって、アーミッシュとして洗礼を受けない人はもちろん、アーミッシュから抜けた人の存在というのは、身近です。10人に1人ですから、少ない率ではないのです。身の回りに、何人かはいるのが普通でしょう。

たとえアーミッシュではなかったとしても、家族・親族・友達・同僚という縁はなくなりません。同じ教会で礼拝を受ける事はなくなりますが、人間同士のつながりは維持したまま交流を続けています。


(参考記事)
「2020 PLANNING GUIDE Ohio’s Amish Country」へのMarcus Yoderさんの寄稿記事

この記事が少しでも、アーミッシュのラムシュプリンガに対する正しい理解の一助となればと願います。

Online
Shop
Menu