アーミッシュの服には300年の歴史と、彼らの信念が詰まってる

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アーミッシュの服の起源を探る

今日は、アーミッシュの服の起源についてまとめたいと思います。

アーミッシュは簡素さを大切にするから、シンプルな服装をしている。
という説明は広く知られている事ですが、その服のデザインやシルエット、ディティールの仕組みなどは、一体どこから来ているのでしょうか?

何か、起源があるのでしょうか?
それとも、アーミッシュの人達がどこかのタイミングで、みんなで集まって開発したのでしょうか?

その答えを探っていきます。

参考にしたのは、オハイオ州で購入した「Why Do They Dress That Way?」(Stephan Scott)という書籍です。
(英語ですが、アーミッシュの服の歴史、起源を詳しく知りたい方にピッタリの本です)

アーミッシュは、もともとメノナイトというグループから分派したグループです。メノナイトは、再洗礼派に属するグループ。
アーミッシュの服の起源をさかのぼる事はつまり、再洗礼派の服の歴史を探るという事でもあります。

まずは、初期の再洗礼派の服の特徴を見てみましょう。

初期の再洗礼派の服装

再洗礼派の人たちは、初期の時代から、確かに着るものに注意を払っていたようです。ですが、こちらのページにも書いたとおり、激しい迫害を受けながら拡大していったグループです。彼らは、政府の役人に見つからないように、隠れて礼拝をしたり聖書の勉強会を行っていました。
一般大衆に紛れて生活するために、彼らは「特徴のない服」を着る必要がありました。つまり、庶民と同じ服です。
この事から、1600年代までは、再洗礼派の服装において他と異なるような特徴的な点は少なかった事が伺えます。
(オランダの一部のメノナイトは、簡素な服装を着るように指導されていたという記録もあるようですが、これは少数派といえるのでしょう)

再洗礼派の初期の資料を遡ってみても、服装に関するルールを見つける事はできないそうです。とはいえ、アーミッシュは現在でも自分たちのルールを資料に残す事はしません。服装に関するルールだけでなく、すべての規定(オルドゥヌング)は口頭伝承です。
資料がないからといって、ルールが無かったとは言い切れません。
ルールがあったのか、なかったのかは、今となっては正確に判断ができないようです。

では、再洗礼派初期以降の歴史を見ていきます。

1500年代の贅沢禁止令

ときは1500年代。再洗礼派信徒の住むヨーロッパの多くの地域で、「奢侈(しゃし)禁止令」という法令がたびたび施工されるようになりました。これは、贅沢を禁止して倹約を推奨・強制するための法令(by Wikipedia)だそうです。

庶民は贅沢する事が禁止されましたが、一部の富裕層や権力者は贅沢を楽しみ続けました。もともと、簡素さ・謙虚さ・慎ましさを美徳とする再洗礼派の人々は、この法令が指定したルール以上にシンプルな服を着るようになったそうです。

1700年代、ファッションの流行が始まる

1700年代、社会が豊かになるにつれて、奢侈禁止令に従う人はいなくなりました。経済的な余裕ができ、服の世界に「流行」が生まれるようになり、一般人の身に着ける物が急激に変化していったのです。一般人が高価な服を楽しむようになった一方で、アーミッシュは簡素でシンプルな服を着続けました。この時から、再洗礼派のアーミッシュ含むグループの服装が、他の人とは異なるようになってきます。

1800年代、世の中の潮流から離れる

1800年代、流行に沿った既製服(レディメード)が安く手に入るようになります。それまでは家での手作り、もしくはオーダーメードが主流でしたが、お店で安く服を買う事が一般的になってきました。
それまでは、一部の富裕層しか流行のファッションを楽しむ事ができなかったのですが、一般市民にもチャンスが広がっていったのです。

アーミッシュをはじめ保守的なキリスト教グループの人達は、この様子に危険を感じはじめました。
信仰を実践するクリスチャンは、このような短期的で安易な流行の服に身を包むべきではない。そんなふうに考えるようになったのです。

アーミッシュ達は経済的な余裕があったにもかかわらず、流行のファッションには手を伸ばさず、「謙遜さ」を象徴するこれまでのシンプルな服に固執するようになります。それは、ある意味で世の中の変化に対する抵抗でもありました。

当時、流行のファッションを身に着ける事は、すなわち自分のステータスを主張する事を意味していました。つまり、自分はおしゃれを楽しむ経済的な余裕のある人間だ、という事を誇示する手段でした。「謙遜」を美徳とするアーミッシュにとって、このような行動はまったく”クリスチャン的”ではなかったのです。

信仰に沿った服飾アイテムの模索がはじまる

現在のアーミッシュの服装は、この1800年代の服に起源を見出す事ができますが、完全には一致していません。アーミッシュのリーダー達は、この頃から自分達が身に着けるにふさわしい服飾アイテムを一つずつ模索しはじめたのです。

世の中の人たちが信仰よりも流行を重んじるようになってしまった事に危機意識をもった彼らは、着る服についても自分達の信仰を反映した物にしようと協議を進めていきます。

流行が終わったアイテムから、自分達に合うものを取捨選択していく

アーミッシュの人たちは、「アーミッシュ用の服」というものを新しく作って体系化したわけではありません。新しいデザインを作るのではなく、過去に一般的だった服飾アイテムの中から、自分達の価値観に合うものをピックアップしていったのです。

ポイントは、すでに流行りが終わってるアイテムであること。
なぜなら、現在流行っているアイテムを身につけてしまったら、「流行に乗っかる人」つまり「クリスチャンの価値観を服装で実践していない人」として見られてしまいます。それを避けるために、流行りの終わったものを選択肢としていったのです。

例えば、アーミッシュの女性の服は、1600年代中期のピューリタンの服飾アイテムが多く採用されいます。アーミッシュ女性が身につけているヘッドカバー、エプロン、ロングスカートはピューリタン時代の典型的なアイテムなのです。このような服を1800年代に着る人は誰もいません。だからこそアーミッシュはこの時期の服飾アイテムを採用したのです。

慎み深い服、機能的な服を選ぶ

アーミッシュが服のアイテムを選ぶときの基準は、それが慎み深さを表す物かどうか、そして、機能的かどうかです。男性の場合、1800年代は膝丈ズボンが流行っていましたが、それよりも10分丈の長ズボンの方が慎み深いと判断し、これを採用しました。

また、フロント部分の開閉はジッパータイプよりもブロードフォールタイプ(現在の水兵のパンツなどに見られる作り)の方が慎み深いとし、これを採用しました。

女性のケープ、エプロン、ロングスカートは、肌の露出を抑えてくれるため慎み深いと判断しました。1800年のはじめの頃に一時流行した黒いボンネットも、慎み深さを現せるシンボルとして採用されています。

1800年代に流行ったボリュームのあるスカートや、ふくらみのある派手なトップスは採用しませんでしが、ハイカットのブーツ、黒いストッキングは、謙虚さを象徴するものとして選びました。

各アイテムは、そのまま採用されるものもあれば、アーミッシュ流に簡素化された物もあります。例えば1700年代に一般的だった男性用のコートは、外ポケットがはずされ、さらに前開きの開閉はボタンではなくホックに代わっています。

つまり、アーミッシュの服飾文化は、総じて「○○年当時のもの」と言い切る事ができません。彼らの着ている物は、アイテムによってその起源がバラバラなのです。色々な時代から自分達の価値観に合うものをピックアップし、それらを合体させています。

というわけで、1600年代のドレスを着ながら、1700年代のボンネットをかぶり、1800年代のショールをはおっている、なんて事が起きているのです。

1920年代から、一般大衆の服との乖離が顕著になる

一般大衆の服の流行は時代とともに急速に変化していきました。1920年代から、特に女性の服装の変化が顕著になります。スカートの丈がロングから膝丈になり、肌の露出が増えていきます。女性が髪の毛を短く切りそろえる事も、この頃から一般的になってきました。そして、濃い化粧をすることもです。
また、肌色のストッキングが必需品となり、女性も男性のようにズボンを履くようになりました。

アーミッシュはこの大衆の服飾文化の変化に驚愕し、かつ強い抵抗感を覚えました。肌の露出や、化粧、女性が男性のような服装をする事は、彼らの価値観に反する事だったのです。彼らはますます自分達流の服装をする事を重要視し、世間の流行から一線を置くようになったのです。そして、現在のアーミッシュの服飾文化が確立されていきました。

アーミッシュの服は、300年の歴史が反映されている

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私から見ると、アーミッシュの人の服装はものすごく特徴的に見えます。

でも、彼らの服飾アイテムは、どれも一時期に広く庶民に着用されていたものだったのですね。ただ、アイテムによって時期がバラバラ。1600年から1800年の歴代の服飾アイテムの中から、「慎み深さ・謙虚さ・シンプルさ・機能的かどうか」という基準をベースに、長い年月をかけて取捨選択してきたものが、今の彼らの身につけている物です。

アーミッシュ流にデザインが簡素化されているところも多いようですが、それぞれのアイテムにそれぞれの時代背景がある。そう考えると、アーミッシュはヨーロッパの300年ほどの服飾文化の伝統・歴史を背負っているという事。すごいですよね…。アーミッシュの服のアイテムを細かく分析していったら、色々な時代の文化を見つける事ができそうです。

そして、1800年代にベースが整い、2020年現在、ディティールを徐々に変化させながらも継承されている彼らの服。継承されている期間は、実に200年以上……。長いです!!

しかも、その200年間ずーっと一貫して、「流行に流されたくない」という信念を持って守ってきたのです。その思いの強さにも、頭が下がります。

それまで、「アーミッシュの服ってかわいいな、美しいな」と表面的なところを注目していましたが、こんなに長い歴史と、強い信念が背景にあるなんて……。

そんな服って、他にあるのでしょうか?

さらに、200年も人々に着られているという事は、そのデザインや機能性も優れているということです。実際、アーミッシュの服を着てみると、その着やすさ、動きやすさ、快適さ、お手入れのしやすさ、に驚きます。
(そんな驚きが原体験となって、Down to Earthのアーミッシュワンピースが誕生したわけですが)

彼らの服、もっともっと注目される価値があるのではないでしょうか?
私はまだ女性のワンピースしか分析できていませんが、男性用のアイテムやヘッドカバーなどにも取り組んでみたいです。

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最も保守的なアーミッシュグループ・シュワルツェントルーバーの服を分析、アレンジし、商品化しました。

昔ながらの暮らしを守るアーミッシュの伝統服「トラディショナルアーミッシュドレス」
トラディショナルアーミッシュドレス

オハイオのアーミッシュドレスをお手本にした「アーミッシュ風シンプルワンピース」
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2020年9月18日〜22日、東京の阿佐ヶ谷でアーミッシュワンピースの展示販売会を開催します。
詳細はこちら。
https://shop.dte-amish.com/?mode=f64

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